健康経営は、従業員の健康維持と企業の生産性向上を両立させる取り組みとして注目を集めています。しかし、導入したものの思うように成果が出ず、その継続や浸透に悩む企業も少なくありません。
本記事では、健康経営でありがちな課題を「担当者」「経営層」「施策設計」「従業員」の4つの視点から整理し、それぞれに有効な対策や改善策を具体的に解説します。課題解決によって得られるメリットや、健康経営を実践している企業の事例も紹介しますので、自社の取り組みを見直す際の参考にしてみてください。
目 次
健康経営でよくある課題とは?
まずは、健康経営に取り組む中で多くの企業が直面しやすい課題について、担当者・経営層・制度設計・従業員の各視点で整理していきましょう。
担当者の課題
健康経営については、専任を設けず担当者が他業務と兼務しているケースも多く見られます。その場合、制度設計や施策の運営に十分な時間やリソースを割けないのが現実です。
さらに、健康経営に関する知識や評価指標の理解が不十分だと、社内への説明や経営層への説得に自信が持てず、思うように企画を進められないこともあるようです。
その結果、健康経営の取り組みが単発のイベントや施策で終わってしまいがちで、継続的な改善や定着にはつながらない状況に陥りやすくなります。負担や不安を抱える担当者が孤立し、社内での理解や協力が得られないまま停滞することも少なくありません。
経営層・組織体制に関する課題
健康経営を成功させるためには、経営層の理解と主体的な関与が不可欠です。しかし実際には、経営層がその重要性を十分に理解しておらず、現場任せになっているケースが多いのが現状です。このような状況では、施策が「現場の努力」にとどまり、組織全体での推進力を欠いてしまいます。
また、全社的に推進するための明確な組織体制が整っていないことも多く、担当者に依存した属人化や、部門間での施策の分断が起こりやすくなります。さらに、健康経営の効果がすぐに数値化しづらいことから、経営視点ではコスト面ばかりが注目され、中長期的な視野での評価や改善が後回しにされがちなのも問題です。
施策自体の課題
健康経営の取り組みにおいては、目標やKPIが曖昧なまま施策をスタートしてしまうケースもあります。実施の目的が不明確だと、施策が単なるイベント化し、社内での納得感や参加意欲を得にくくなるのが問題です。
さらに、施策実施後の振り返りや効果測定が十分に行われず、PDCAサイクルが機能しないまま終わってしまうことも多く見られます。その結果、課題の改善や制度の成熟につながらず、「やりっぱなし」の状態が続いてしまうこともあるようです。
また、健康経営優良法人の認定取得といった"見える成果"ばかりが目的化し、従業員の健康維持・増進という本来の目的が後回しになることもあります。認定はあくまで手段のひとつであり、形だけの取り組みにならないよう注意が必要です。
従業員側の課題
健康経営の施策は、実施の目的や意図が従業員に十分に伝わっていないと、「また何か始まった」「押しつけられているだけ」といった受け身の反応を引き起こしがちです。こうした認識のズレは、参加意欲の低下や施策の形骸化を招く原因になります。
また、健康に関する知識や意識が十分でない場合、施策の価値が理解されず、自発的な行動改善に結びつかないことも少なくありません。さらに、職種や年齢、ライフスタイルによって関心の度合いや必要性に差があるため、全員が一律に関心を持つことは難しく、結果として参加率が伸び悩む傾向があります。
従業員一人ひとりの背景やニーズに応じたアプローチがなければ、健康経営の取り組みは浸透しにくいのが実情です。
健康経営の課題を乗り越えるためにできる対策
ここからは、前章で紹介した課題に対して、どのような対策を講じるべきかを具体的に見ていきましょう。
担当者の負担を減らす仕組みをつくる
健康経営を継続的に推進していくためには、特定の担当者だけに負担が集中しない体制づくりが欠かせません。現場任せでは限界があるため、部門横断での推進チームを構成し、役割や業務を分担することで属人化を防ぐことが重要です。
また、制度や指標に関する理解を深めるには、健康経営アドバイザーなどの資格取得も有効です。施策の意図を社内にわかりやすく伝える力が身につき、信頼性と説得力のある運営につながります。
さらに、施策設計やデータ分析、評価の手間を軽減するために、外部サービスの活用も検討しましょう。リソースの限られた企業でも、効率的かつ質の高い取り組みを実現しやすくなります。
健康経営アドバイザーについて詳しくは、以下の記事をご覧ください。
健康経営アドバイザーとは?メリットや取得の流れを解説
経営層を巻き込み、組織全体で取り組む工夫をする
健康経営の推進において、経営層の理解と関与を得ることは非常に重要です。そのためには、離職率や医療費、休職者数といった「数値で示せる成果」を資料などで具体的に提示するのがおすすめです。そうすると、経営層も納得感を持って取り組みに加われます。
さらに、健康経営を単なる福利厚生としてではなく、経営理念やミッションと結びつけて全社的な目的として位置づけると、全社員への浸透力が高まります。「従業員の健康を守ることが企業価値の一部である」というメッセージを明確に伝えることがポイントです。
そのうえで、部門を横断した推進体制を整備し、定例ミーティングなどを通じて情報共有や意見交換の場を設けると、施策の一体感や改善意識が生まれやすくなります。
施策を形だけにしない取り組み方を考える
健康経営の施策は、目的やねらいを明確にしないまま実行すると、単なる「やっただけ」に終わってしまいます。まずは、施策実施の目的やねらいをきちんと明文化し、社内で共有したうえで実行に移すことが基本です。
また、実施前後にアンケートや体調記録をとることで、従業員の意識や体調の変化を"見える化"し、効果の有無を確認できるようにします。結果を見える形にすることで、施策への納得感や改善意識も高まりやすくなります。
さらに、定期的な振り返りと見直しをチーム内で実施し、改善サイクルを回していく体制を整え、形だけに終わらない取り組みにつなげましょう。
従業員の行動変容を促す仕組みにする
健康経営の各種取り組みを従業員の行動変容につなげるには、無理なく参加できる仕組みづくりが欠かせません。たとえば、オンライン・対面の両方を選べる形式や、複数テーマから選べるセミナーなど、選択肢のある施策設計によって参加のハードルを下げる工夫が有効です。
また、支援制度やセミナーは、従業員のライフスタイルや年齢・職種などに応じた設計にすることで、関心や実行率が高まりやすくなります。画一的な内容ではなく、ターゲットに合った工夫をおこないましょう。
さらに行動記録の提出や社内イベント、ポイント制度といった継続しやすい仕掛けを用意すると、日常的な習慣づけを促進しやすくなります。
健康経営の課題解決で得られるメリット
ここからは、健康経営における課題を解消することで、企業がどのようなメリットを得られるのかを解説します。
離職率の低下・採用力の向上
健康経営の取り組みにより、企業が「従業員を大切にしている」という姿勢を社内外に明確に示すことができます。この姿勢は、働きやすい職場環境として自然と評価されやすく、とくに若手・中堅層の離職率改善に効果が期待できるでしょう。
実際に、健康面での配慮やサポート体制が整っている職場は、従業員にとって「長く働ける場所」として安心感を与える要因になります。また、企業イメージの向上は採用面にも好影響を与え、求職者からの信頼感や共感を得やすくなるため、応募数の増加や人材の質の向上にもつながります。
生産性の向上・業績貢献
従業員の健康状態が改善されることで、集中力や作業効率、判断力の向上が期待できます。体調不良によるパフォーマンス低下を防ぐことは、日々の業務の質を高めるうえでも重要なポイントです。
また、プレゼンティーズム(出社してもパフォーマンスが低い状態)の予防にもつながり、働く時間の中で成果を出しやすくなるメリットもあります。
結果的に、チームや部門全体の生産性が底上げされ、業績の向上へと波及していけば、企業全体の経営指標にもよい影響をもたらしてくれるでしょう。
医療費・休職率の抑制
健康経営の取り組みによって、生活習慣病やメンタルヘルス不調の予防が進めば、従業員の医療費を抑える効果が期待できます。
また、体調不良やメンタル不調による短期・長期の休職が減ることで、業務の停滞リスクが低減するのもポイントです。職場における"穴"が減ることは、組織全体の安定運営にも貢献し、間接的なコスト削減にもつながるでしょう。
こうした健康投資は、健康保険組合の財政や人件費管理の面でも好影響をもたらし、大きな経営的メリットを得られます。
組織エンゲージメントの向上
健康施策をおこなうと、健康に関する対話が増えたり、さまざまなイベントに参加したりすることで、職場内のコミュニケーションが活性化する効果もあります。従業員同士の関係性が深まれば、チームとしての連携が生まれやすくなります。
また、従業員が安心して働ける環境が整えば、心理的安全性が高まり、仕事に対する前向きな姿勢が育つことも期待できるでしょう。
こうした取り組みの積み重ねが、企業への帰属意識や貢献意欲の向上につながり、結果として組織全体の一体感を高める好循環を生み出します。
健康経営の取り組みで課題を乗り越えた企業の事例
ここでは、実際に健康経営に取り組む中で課題に直面しながらも、それを乗り越えた企業の事例をご紹介します。
キリンホールディングス
キリンホールディングスでは、プレゼンティーズムの改善に向けて、睡眠に着目した施策を実施しました。調査から睡眠の質と業務効率に強い相関があると判明し、オンラインセミナーや睡眠計測を取り入れたプログラムを展開しました。
さらに、食事・運動・飲酒を含む生活習慣改善プログラムも導入し、1か月の行動記録を通じて気づきと行動変容を促進しました。結果として、睡眠の"見える化"がモチベーション向上につながり、健康意識の醸成にもつながったといいます。
参考:健康経営の実現|KIRIN
オムロン ヘルスケア株式会社
オムロン ヘルスケア株式会社では、社員の健康増進を目的に、「睡眠」「運動」「禁煙」などを柱とした取り組みを展開しています。なかでも、プレゼンティーズムの改善に向け、睡眠セミナーや、不眠度を測定・改善するプログラムを実施しました。
また、卒煙を推進するための社内イベント「卒煙マラソン」や禁煙外来の費用補助などを導入しました。これらの施策により、禁煙率の向上や睡眠時間の改善といった成果が見られたそうです。
生活習慣の"見える化"と働きやすい環境づくりを両立させることで、従業員の健康意識と行動変容を着実に促している事例です。
参考:健康経営|OMRON
株式会社イトーキ
株式会社イトーキでは、パフォーマンススコアとエンゲージメントスコアの向上を目的に、運動支援や健康チェック、卒煙支援、各種健康セミナーなど、幅広い健康施策を展開しています。
これらの取り組みは、従業員の健康意識や行動に働きかけるだけでなく、職場環境そのものの改善にも寄与しており、継続的な健康経営の基盤となっています。
その結果、両スコアにおいて着実な改善が見られ、従業員の活力向上と組織全体のエンゲージメント強化につながっています。
参考:健康経営|ITOKI
まとめ
健康経営の課題は、担当者・経営層・従業員それぞれの立場に存在し、相互に影響し合いながら組織全体に波及しています。だからこそ、個別の視点だけでなく、全体を見据えた対策が必要です。
適切な改善策を講じることで、離職率の低下や生産性の向上、組織エンゲージメントの強化といった、経営的にも大きな成果が期待できます。
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