福利厚生費は、従業員の生活安定や職場環境の向上、さらに企業の税負担軽減にも大きく貢献する重要な経費です。福利厚生費を正しく理解し効果的に活用することは、従業員の働きやすさや満足度を高めるだけでなく、企業の成長のためにも欠かせません。
本記事では、福利厚生費の定義や種類、経費計上の条件、具体例などをわかりやすく解説します。従業員満足度と企業の成長を両立する福利厚生費の効果的な活用にむけ、ぜひ役立ててみてください。
目 次
福利厚生費とは
福利厚生費とは、給与・賞与以外で、従業員の生活安定や向上を目的として会社が支出する費用です。同じ「人」に対して使う支出であっても、適用範囲が幅広く、従業員への福利厚生目的に限定されている点が交際費とは異なります。
税務上も、一定の条件を満たせば経費計上が認められ、損金として処理することで法人税の非課税対象になることも特徴です。近年では、働き方改革や健康経営の一環として、福利厚生費の重要性が高まっています。
次章から、内容を詳しく解説していきます。
福利厚生費を経費計上する要件
福利厚生費を経費として計上するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 全従業員に平等な利用機会がある
- 支給金額が社会通念上、妥当な範囲内である
- 現金支給や現物支給でない
福利厚生は、特定の従業員だけでなく、全従業員が公平に利用できるものでなければなりません。一部の人だけに支給される場合、その支給分は給与とみなされる可能性があります。
また、常識的な金額を超える支出も、福利厚生費とは認められません。例えば1泊2日の社員旅行に数百万も支出するのは妥当な金額とはいえず、経費とはされないのが一般的です。
なお、現金支給や現物支給の場合も、給与とみなされる可能性がある点も注意が必要です。
自社で福利厚生として提供している・提供しようとしている内容が福利厚生費の対象となるか不明な場合は、税理士に相談することが大切です。
福利厚生費の種類
福利厚生費は、法定福利費と法定外福利費の2種類に大別されます。両者の違いを確認しておきましょう。
法定福利費
法定福利費は、法律で企業負担が義務付けられている以下の法定福利厚生にかかる費用を指します。
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
- 労災保険料
- 介護保険料
- 子ども・子育て拠出金
負担割合は主に「事業者の全額負担」と「事業者と従業員が半々で負担する労使折半」の2パターンがあります。従業員の負担分については、あらかじめ給料から天引きするケースがほとんどです。
法定外福利費
法定外福利費は、企業が任意で実施する福利厚生のための以下のような費用です。
- 交通費や通勤手当
- 健康促進を目的とした制度
- 社宅・住宅手当、飲み会補助
- 資格取得手当 など
どの企業も内容が一律の法定福利厚生と異なり、法定外福利厚生は各企業の方針により内容や充実度が大きく異なることが特徴です。とくに近年は、従業員のエンゲージメントを強めたり、採用市場での魅力を高めたりするために、さまざまな法定外福利厚生に力を入れる企業が増えてきました。
なお、一般的に「福利厚生費」と言うときには、法定外福利費を指すことがほとんどです。本記事でも、福利厚生費=法定外福利費として解説していきます。
福利厚生費の具体例
福利厚生費には、従業員の健康を守るものから、生活環境を支えるもの、モチベーションや企業の団結力を高めるものまで、さまざまなものがあります。ここでは、代表的な福利厚生費をご紹介していきます。
健康経営を目的とした福利厚生費
まずは、近年注目されている「健康経営」を目的とした福利厚生費をご紹介します。
健康診断費用
年1回の健康診断は、従業員の健康管理に欠かせない重要な取り組みです。会社が健康診断にかかる費用を全額負担することで、従業員は経済的負担を感じることなく安心して受診でき、健康への意識も高まります。
メンタルヘルス対策費用
近年は肉体的な健康だけでなく、メンタルヘルスへの関心も高まっています。健康経営の一環として、職場のストレス管理に取り組む企業も多く見られるようになりました。
例えば従業員のストレスチェックやカウンセリング費用も、福利厚生費として認められます。従業員のメンタルヘルスをサポートすれば、精神的な不調による離職やパフォーマンス低下を防ぐことにつながります。
フィットネスクラブの法人契約
従業員の健康促進やストレス解消を目的として、フィットネスクラブとの法人契約を結ぶ企業も増加中です。定期的な運動習慣は、従業員の心身の健康を支え、パフォーマンスの向上にも貢献します。
フィットネスクラブとの法人契約は、全従業員が利用できる仕組みを整えることで、福利厚生費として認められるだけでなく、健康経営の一環として社内外で高く評価されることがメリットです。
働きやすい環境を支える福利厚生費
続いて、従業員が働きやすい環境を支えるために欠かせない福利厚生費をご紹介します。
通勤手当
従業員が会社に通勤するために必要な交通費の全額または一部を支給する通勤手当も、福利厚生費の一種です。通勤手当は、国税庁が社会通念上相当の非課税限度額を定めていて、従業員1人あたり公共交通機関利用で月15万円まで、マイカー通勤は最大月31,600円まで経費として計上できます。
通勤手当を充実させると、従業員が交通費を気にせず勤務できるのはもちろん、遠方に住む求職者にアピールしやすくなるのもメリットです。
社宅や住宅手当
社宅の提供や住宅手当も、福利厚生費として認められる代表的な制度です。従業員が家賃の50%以上を負担する場合、会社負担分は非課税となり損金に算入できます。
ただし、課税対象とみなされないためには、地域の家賃相場に基づき適切に金額を設定することがポイントです。住宅支援は従業員の生活安定に直結するため、優れた福利厚生として従業員満足度の向上に寄与します。
モチベーション向上を目指した福利厚生費
モチベーション向上を目指した福利厚生費 従業員のモチベーションを向上させ、離職率低下をサポートする福利厚生費をご紹介します。
社員旅行やレクリエーション費用
従業員が交流を深める社員旅行も、福利厚生費として認められます。ただし、社会通念上、4泊5日以内(海外の場合は現地での滞在日数が4泊5日以内)であり、従業員の50%以上が参加することが条件で、会社負担は従業員1人あたり10万円程度が目安です。
また、チームビルディングを目的としたイベントなどのレクリエーション費用も福利厚生費として計上できます。
資格補助
従業員が仕事に関係のある資格を取得するためにかかる費用も、福利厚生費として計上できます。例えば、経理部の従業員が簿記の資格を取得する費用や、健康経営を促進したい企業が従業員を健康経営アドバイザーとして育成する際の資格取得費などが該当します。
ただし、税理士や弁護士など独立開業できる資格の取得費用などは対象外です。どのような資格なら福利厚生費にできるのか不明な場合は、税理士に確認するようにしてください。
健康経営アドバイザーについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。
参考:税について調べる|国税庁
飲み会補助(新年会や忘年会)
新年会や忘年会などの飲み会費用も、全従業員が対象で、社内親睦を目的とする場合は福利厚生費として扱えます。実際には欠席者が多く、参加したのが一部の従業員であっても、全員が参加できるという条件を満たしていれば問題ありません。
なお、新年会や忘年会に取引先が参加する場合の勘定科目は、福利厚生費ではなく交際費として仕分ける必要がある点に注意しましょう。
慶弔見舞金
従業員の結婚や出産、弔事における支援金や見舞金も福利厚生費として認められます。支給額は、社内規定に基づいて、妥当な範囲で設定することが大切です。
こうした制度は、会社が生活を支えているという安心感や信頼感を高め、離職を防止する効果が期待できます。
おすすめの福利厚生制度については、こちらの記事をご覧ください。
福利厚生費はの節税対策になる?
福利厚生費の計上は、節税対策として有効です。
課税対象となる税務上の利益は、「益金(収益)-損金」で算出します。適正な福利厚生費は、全額を経費として損金算入できるため、その分課税される利益が減少します。結果として、福利厚生の強化は法人税の負担軽減につながる仕組みです。
ただし、特定従業員への偏った福利厚生を提供した場合、その支出は給与とみなされ経費として認められないことがあります。また、節税目的の過度な福利厚生の導入や不適切な運用は、税務調査の対象となる可能性があるため、適切な範囲で運用することが重要です。
福利厚生費でよくある質問
最後に、福利厚生費でよくある質問とその回答をご紹介していきます。
給与との違いは
給与は労働への対価として支払われるもので、課税対象となります。従業員には所得税がかかるほか、さらに社会保険料・住民税も増加します。
一方、福利厚生費は、給与・賞与以外に、従業員の生活安定や向上を目的として会社が支出する費用です。適正な福利厚生費は非課税となるため、実質的な手取り額を増やすことにつながり、従業員のモチベーション向上にも貢献します。
交際費との違いは?
福利厚生費は、従業員全体の労働環境改善や生活支援を目的とする費用です。一方、交際費は、取引先との関係構築や営業活動に関連する費用で、接待や贈答品の購入などが含まれます。
そのため同じ飲食費であっても、従業員に提供するなら勘定科目は福利厚生費になりますが、クライアントや取引先に提供するなら交際費として計上しなければなりません。
なお、福利厚生費は損金として計上できますが、交際費は損金算入できない点も大きな違いといえるでしょう。
書類の保管期間はどれくらい必要?
法人の場合、会計帳簿・領収書は事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する必要があります。税務上の赤字である欠損金を繰り越す場合は、欠損金が生じた事業年度の請求書を10年間保存が必要です。
税務調査に備えて、福利厚生費に関する書類も、可能な限り長期保管することが望ましいといえます。
一方、福利厚生サービスなどとの契約にかかる決済書類の保管期間は契約が終了する日の翌年4月1日から5年、事業計画は3年、健康管理記録は離職後5年など、内容により異なります。
なお、上記は2025年2月時点の情報です。実際にどの書類をどれだけの期間保管する必要があるかについては、税理士に確認するようにしてください。
まとめ
福利厚生費は、従業員の生活を支えるのはもちろん、税負担を軽減し、健康経営や働き方改革を実現するために重要な経費です。従業員にとっても実質手取り額を増やせるメリットがあるため、積極的に制度の見直しや新たな制度の導入を検討しましょう。
なお、COSPAウエルネスでも、健康経営を支援する以下のようなサービスを提供しています。
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従業員のモチベーション向上や、企業の競争力アップに最適なので、ぜひ福利厚生の一環として導入をご検討ください。